コラム
プロフィール
山口 久美子
- 足育研究会協力委員
- (社)足と靴の健康協議会認定上級シューフィッター
バレーシューズの問題点(2021/08/30)
だれもが子供時代に一度は足を通したであろう、バレーシューズ。
その歴史は 1950 年代にさかのぼります。
なじみ深いバレーシューズですが、子どもたちが室内で長時間履く「靴」としては少し簡 易的で、最近では歩きづらさを感じる子どもも多く、多少問題があるようです。
どのような問題があるのでしょうか。
バレーシューズの問題点1「戦後から変わらぬスタイル」
先ほどもお伝えしましたが、現在のバレーシューズの原型が発売されたのは 1954 年とい われ、それ以前は前ゴムの内履きや外履きを内履き用に使うということが主流でした。この 年にトーシューズがモデルとなった現在のバレーシューズが 発売され、その安さから上履 きの定番として日本全国に定着し、現在までそのスタイルをほとんど変えていません。「内 履きは外履きより簡易で安くてあたりまえ」という考え方も一緒に根づき、現在まで基本的 な上履きの考え方となっています。
現在の子どもの体形やライフスタイルは 1950 年代の子供たちのものとは随分違います し、販売されている一般的な靴の機能もよくなっています。子どもの学校生活の大半を支え る上履きに変化が起きなかったのはよく考えれば驚くべきことなのです。
バレーシューズの問題点2「内履きは靴ではない?」
日本人には「家の玄関で履いて外へ出る靴は外履き」「外から職場や学校で履き替える靴 は内履き」「職場や学校から帰宅する靴は外履き」の概念があります。その概念の中の「内 履き」のイメージはなぜかサンダルやスリッパです。これは室内の床に対する配慮もあるの かもしれませんが、長時間のサンダル、スリッパの使用は思った以上に足に負担をかけます。
ゴム底に布をのせ、甲をゴムで止めただけのバレーシューズはスリッパとさほど変わりま せん。足の保護機能についても運動機能についてもサポート力はスリッパ程度です。
学内で自然災害や事件に見舞われた際、子どもたちはバレーシューズを履いて安全にか つ速やかに避難ができるでしょうか。
健康管理、危機管理どちらの点でも、内履きは「靴」であるべきです。外履きと同様の機 能をもっていたほうが良いと思います。
バレーシューズの問題点3「バレーシューズの困った仕様」
一般的に広く、安価に供給されるバレーシューズには、共通して困った特徴があります。
特徴1)カウンターが柔らかく踵の骨を支持できない
子どもの足はまだ骨格、靭帯、筋肉が未発達ですから、靴で適度に支えることが必要です。
着地したとき、踵の骨は内側に少し倒れこみ衝撃を分散させるのですが、未発達の子ども踵 の骨の場合、過度に倒れこんでしまう可能性があります。それを支持する機能が「カウンター」です。「カウンター」があることで倒れこみすぎるのを防ぎ、歩行時の着地が安定します。将来、踵の骨が外反することを防ぐのに最も大切な靴の機能ですが、多くのバレーシューズはこの機能が脆弱です(図1参照)。
特徴2)足全体をホールドできず、つま先を守れない
スリッパやゴム長靴を履いた時、足と履物の一体感がなく脱げそうなのと、履物内で足が 動いてしまうのとで歩きづらさを感じたことがある人は多いと思います。カウンターが柔 らかく、調整の利かないゴム留めをしただけのバレーシューズも例外ではありません。
多くのバレーシューズは全体に柔らかく、履き口がガバガバと開いてしまっています。 (図2参照)これでは歩くとバレーシューズが脱げてしまいます。すると足は、足趾をグン と伸ばして(背屈させて足趾を浮かせて)少しでも足長を長くし、踵を安定させようとしま す。しかしそれでも足は靴の前方へ滑り、つま先を圧迫します。足趾を正しく十分に動かせ ないだけでなく、変形に繋がったり、爪を痛めてしまう原因になることがあります。通常留め具のある靴なら、「捨て寸」といって足趾を十分伸ばしたり曲げたりできる余裕を確保で きますが、バレーシューズのように調整機能がない靴ではこれができません。
また前述したように、着地したとき踵の骨は少し内側に倒れこむのですが、カウンター以 外にも留め具などでこれをサポートする必要があります。柔らかな子どもの足を、靴という コルセットで適度にホールドしてあげるイメージです。
特徴3)「ソールが薄すぎる、柔らかすぎ?」
子どもの足は運動の刺激を受けることで成長しますから、大げさな機能を持った靴を選 ぶ必要はありません。素足に近い感覚で歩ける靴、という考えとしては薄いソールの上履き も間違いではないと思います。しかしながら現代の学校の床は硬いタイルで、冬の足元も冷 たいかと思います。暑い夏、熱いアスファルトの上やがれきの上を避難するといったことも 十分想定すると、足を保護する機能として上履きのソールの仕様は議論されてよいと思い ます。
歩行時体重の 1.5 倍、走行時は最大 5 倍の衝撃が踵にかかります。以上の事情を考えて も、適度な厚みと弾性のあるソールは必要になるでしょう。
また、足は足趾の付け根のところ(MTP関節)が曲がり踏み返します。靴も足と同じところでのみ曲がることが大切です。
ソールが柔らかすぎてあちこちが曲がってしまうソールは足を支えきれず扁平足を助長することがあります。
問題点3「子どもたちへの影響」
子どもの体は足と靴がバラバラに動くと、これに対処しようと本来必要ではない動きを します。そのため疲れやすくなったり、対応しようと頑張りすぎた足趾が変形してしまった り、変形したまま動かなくなってしまったりします(ハンマートー、浮趾など)。その足の 変化がまた、別の変化を生むことがあります(外反母趾、内反小趾、開張足など)。
扁平足は運動不足が原因といわれますが、歩きにくい靴ではそもそも運動するのはつら いはずです。
問題点4「子どもは足の痛みを訴えない」
子どもの足は柔らかく、サイズやデザインのあっていない靴を履いても 適応しようとし ます。そのため、子ども自身が足の痛みを感じて訴えてくることはあまりありません。
長年バレーシューズのアップデートがなされなかった大きな原因はここにあると思いま す。
おわりに「問題点をふまえて」
最近は少しずつではありますが、販売されるバレーシューズの種類も増えてきています。
甲ゴムが調整できるもの、カウンターのしっかりしたもの、外履きと同じ弾性を持つソール を備えたものなどです。それらは子どもが学校生活を送るうえで違和感を感じにくいよう、 バレーシューズとしての外観を保つよう工夫されています。
子どもがバレーシューズを使い続けることが困難な場合、無理をさせず学校に相談をし、 履物を変えてあげることも検討してください。その際、前述しました問題点を挙げて先生方 に説明をしていただくのもよいかと思います。
子どもの足は柔らかくデリケートで、大切に守るべきものです。大人は子どもの身体能力に 頼りすぎず、できる範囲で負担のない上履きを選ぶ必要があると思います。 参考写真
図1
図2
↑履き口が広すぎてガバガバ ↑履き口がしまっている
参考文献
FHA シューフィッタ(幼児子ども)養成講座テキスト
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